現物出資とは?対象資産・メリット・デメリット・手続きの流れを徹底解説【会社設立・増資ガイド】
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- 8月29日
- 読了時間: 15分

会社設立や増資を検討している経営者や起業家の方にとって、資本金をどう用意するかは大きな課題です。現金での出資が一般的ですが、実は 手元資金が少なくても会社を立ち上げられる方法 が存在します。それが「現物出資」です。
「パソコンや車を会社の資産として出資できるの?」「不動産や特許権は資本金にできるの?」と疑問を持つ方も多いでしょう。現物出資は、活用すれば大きなメリットがありますが、同時にリスクや注意点も伴います。
この記事では、現物出資の仕組みからメリット・デメリット、手続きの流れ、活用事例まで を徹底的に解説します。これから起業を考えている方、中小企業の経営者、投資家の方にとって、実務に直結する「現物出資の完全ガイド」となるはずです。
目次現物出資とは?対象資産・メリット・デメリット・手続きの流れを徹底解説【会社設立・増資ガイド】
現物出資とは?基本からわかりやすく解説
現物出資の定義と概要
現物出資とは、会社設立や増資の際に、現金以外の資産を出資する方法 を指します。通常、資本金は現金で拠出しますが、これに代えて「不動産」「自動車」「機械」「パソコン」「有価証券」「特許権」などを資産評価して会社に出資することが可能です。
例えば、スタートアップを立ち上げる際に、開発用のPCやソフトウェアライセンス、営業用の車などを現金の代わりに会社の資本金とするケースが代表的です。
法律的には、会社法に基づいて「金銭以外の財産で払い込みをすること」と定義されています。出資された資産は、会社の所有物となり、その価値が資本金として計上されます。
対象となる資産の種類
現物出資の対象となる資産は幅広いですが、会社法や税務上の基準を満たす必要があります。代表的なものは以下の通りです。
不動産(土地・建物)
動産(自動車、機械、什器備品、パソコンなど)
有価証券(株式、社債など)
債権(売掛金など譲渡可能なもの)
知的財産権(特許権、商標権、著作権など)
会員権(ゴルフ会員権など)
一方で、無形資産であっても「評価が難しいもの」や「経済的価値が不明確なもの」は対象外とされる場合があります。例えば、「顧客リスト」や「ノウハウ」などは現物出資の対象にはなりません。
現物出資が選ばれる背景
現物出資は、主に以下の理由から選ばれるケースが多いです。
手元資金が不足しているが、価値ある資産を持っている→ 起業時に現金が乏しくても、所有する不動産や備品を資本金にできる。
資産を有効活用して資本金を増やしたい→ 既存事業で保有する機械や車両を出資に回すことで、資本金を見せる効果がある。
節税や財務戦略の一環→ 減価償却資産を活用すれば、将来的に経費計上が可能となり、法人税の負担を抑えられる。
つまり、現物出資は「現金を用意するのが難しい起業家」や「資本力を強化したい中小企業」にとって、戦略的に有効な方法なのです。

現物出資のメリットを深掘り
手元資金がなくても会社設立が可能になる
現物出資の最大のメリットは、現金が不足していても会社を設立できる点 です。会社設立には原則として資本金が必要ですが、現物出資を活用すれば、手持ちの資産を換算して資本金に充てられます。
例えば、パソコンや車、事務所として利用する不動産などを現物出資にすれば、現金を集める必要がなくなり、資金繰りに悩む起業家でもスムーズに法人設立を実現できます。特にスタートアップやフリーランスが法人化する際に、この仕組みは大きな助けになります。
資本金を効率的に増加させる
現物出資は、資本金を見せる効果 にもつながります。資本金が多いほど、金融機関や取引先から「資金力がある企業」として信用を得やすくなります。
例えば、保有している不動産や高額な機械設備を出資することで、実際に現金を積み増さなくても資本金額を大きく見せることが可能です。これにより、融資の審査や新規取引の際に有利に働くケースも少なくありません。
節税効果が期待できる
現物出資で計上された資産の多くは「減価償却資産」として扱われ、減価償却による節税効果 が期待できます。
例えば、500万円相当の機械を現物出資で計上した場合、その資産は耐用年数に応じて毎年減価償却が可能です。これにより経費計上が増え、法人税の負担を軽減できるのです。
また、現金を支出せずに資産を法人に移転できるため、資産の有効活用と節税対策を同時に実現 できます。特に製造業やIT企業など、設備投資やソフトウェアライセンスが大きな割合を占める業種にとって大きなメリットです。
設備・備品を効率的に活用できる
起業や事業拡大の際、すでに手元にある設備や備品を現物出資すれば、二重投資を避けられる メリットがあります。
たとえば、自宅で使っていたパソコンを新会社に現物出資として組み入れれば、新たに同じ機材を購入する必要がありません。また、不動産を会社の資産として計上すれば、賃貸物件を契約するコストを削減できます。
このように、現物出資は「無駄な支出を減らし、手元資金を他の重要な用途に回せる」という利点があるのです。
資産を会社名義に切り替えることによる信用力向上
個人が所有していた資産を会社名義にすることで、会社の財務基盤が強化される というメリットもあります。会社のバランスシート上に不動産や車両、機材が資産として計上されれば、外部から見ても「安定した企業」という印象を与えます。
特に中小企業にとっては、資産の見せ方ひとつで金融機関や取引先からの評価が変わることもあるため、現物出資は信用力を高める戦略のひとつとして有効です。

現物出資のデメリットと注意点
手続きが複雑で時間がかかる
現物出資の最も大きなデメリットは、手続きが煩雑で時間がかかること です。現金出資であれば銀行口座に振り込むだけで済みますが、現物出資の場合は以下のようなプロセスが必要になります。
資産の評価額を証明するための資料作成
定款への詳細記載
裁判所から選任された検査役による調査(一定条件の場合)
名義変更や登記手続き
特に不動産や高額資産を出資する場合、評価証明や登記変更に時間とコストがかかる ため、会社設立や増資のスケジュールに影響が出る可能性があります。
資本金の現金比率が下がるリスク
現物出資を多用すると、資本金の中で現金の割合が少なくなってしまいます。これは一見問題なさそうに見えますが、実務上は注意が必要です。
仕入れや人件費などの支払いは現金で行う必要がある
資本金が高額に見えても、実際の資金繰りが苦しくなるケースがある
金融機関の融資審査では「現金比率の低さ」がマイナスに評価される場合がある
つまり、「見かけの資本金は大きいが、運転資金が不足している会社」という状況に陥るリスクがあります。
資産評価を誤ると責任を負う可能性がある
現物出資では、出資する資産の価値を正確に見積もることが不可欠です。もし実際の価値より高く評価して出資してしまった場合、不足額を出資者が補填しなければならない「不足額担保責任」 が発生します。
例えば、実際は100万円しか価値がない機械を200万円と評価して出資した場合、差額の100万円を追加で出資しなければならないのです。このリスクは、特に中古品や評価が難しい無形資産(特許権・商標権など)で起こりやすい点に注意が必要です。
対象外となる資産がある
一見すると「資産なら何でも出資できる」と思われがちですが、実際には対象外となる資産もあります。
客観的な評価が難しい資産(ノウハウ・営業権・ブランド力など)
将来的な価値が不透明な資産
市場流通性がない資産
また、法改正や会計基準の変更によって、過去は認められていた資産が対象外になるケースもあるため、常に最新の法律や会計基準を確認する必要があります。
専門家への依頼が必須になるケースも
現物出資を適切に行うためには、税理士・司法書士・弁護士などの専門家のサポートがほぼ必須 です。資産評価の妥当性を証明したり、登記手続きを進めたりするには専門的な知識が必要だからです。
当然ながら、専門家への依頼には報酬が発生します。現物出資を検討する際は、手続きコストや専門家報酬も含めて総合的に判断することが重要 です。
デメリットを理解した上での活用が必要
現物出資には、資本金を増やしやすい・節税につながるといったメリットがある一方で、「手続きの煩雑さ」「現金比率の低下」「評価ミスによるリスク」 などのデメリットが存在します。
したがって、現物出資を検討する際には以下を意識すると安心です。
現金と現物のバランスを取る
評価額を適正に設定する
必要に応じて専門家に依頼する
これらを押さえることで、リスクを最小限に抑えながら現物出資を有効活用できるでしょう。

現物出資を行う手続きの流れとポイント
現物出資を活用する場合、現金出資よりも手続きが複雑になるため、事前に流れをしっかり理解しておくことが重要です。ここでは、会社設立や増資時に必要となる 現物出資の一般的な流れ をわかりやすく解説します。
出資する資産の選定と時価評価
最初のステップは、どの資産を出資に充てるかを決め、その価値を正しく評価すること です。
対象資産の選定:不動産、車両、パソコン、機械、特許権、有価証券など
評価方法:不動産であれば不動産鑑定士の評価書、機械や自動車であれば中古市場価格、知的財産であれば専門家による鑑定が必要になる場合があります。
この時、評価額を実際より高く見積もってしまうと「不足額担保責任」を負うリスクがあるため、客観的で妥当な時価評価 が必須です。
定款への記載
会社を設立する際は、出資する資産を 定款に明確に記載 しなければなりません。具体的には以下の情報が必要です。
資産の種類(例:東京都〇〇区所在の不動産、○○製ノートパソコン)
資産の数量や詳細(不動産の地番や面積、車の登録番号など)
評価額(算出根拠とともに)
出資者の氏名または名称
この記載を怠ると、現物出資自体が無効になる可能性があるため、記載内容は正確かつ具体的に書くことがポイント です。
検査役による調査(一定の場合)
現物出資には、裁判所が選任する 検査役による調査 が必要となるケースがあります。ただし、以下の場合は検査役の調査が不要です。
出資する財産の価額が500万円以下の場合
市場価格がある資産(上場株式、中古車など)で、適正に評価されていると認められる場合
一方で、不動産や知的財産権など、価値の判断が難しい資産は検査役の調査が必須 となることが多いため、スケジュールに余裕を持って準備しましょう。
必要書類の作成と提出
現物出資を行うには、会社設立時や増資時に多くの書類を作成・提出する必要があります。代表的なものは以下の通りです。
定款(現物出資に関する記載あり)
資産評価に関する資料(鑑定書、見積書、契約書など)
設立登記や増資登記に必要な書類一式
これらの書類は、法務局への提出が必要になります。不備があると登記が認められず、設立や増資が遅れてしまうため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的 です。
名義変更・登記手続き
現物出資では、資産を会社名義に切り替える手続きが必要です。
不動産の場合:法務局で所有権移転登記
自動車の場合:運輸支局で名義変更
特許権や商標権の場合:特許庁への移転登録申請
これらの名義変更を完了させることで、初めて資産が会社の所有物として認められます。ここまで終えて、現物出資の手続きは完了です。
スムーズに進めるためのポイント
現物出資の流れを効率的に進めるには、以下のポイントを押さえておくと安心です。
事前に対象資産の市場価値を調査しておく
専門家(司法書士・税理士・弁護士)に早めに相談する
登記・名義変更のスケジュールを逆算して計画する
現金比率とのバランスを意識する
こうした準備を怠らなければ、煩雑な現物出資の手続きもスムーズに進めることができます。
設立時と増資時で異なる現物出資の活用法
現物出資は「会社設立時」と「増資時」で手続きや活用方法に違いがあります。それぞれのケースを理解しておくことで、状況に応じた最適な出資方法を選ぶことができます。
設立時における現物出資の特徴
会社設立時に現物出資を行う場合、出資できるのは発起人のみ というルールがあります。つまり、設立時には第三者や外部投資家は現物出資を行えず、会社を立ち上げる創業メンバー自身が資産を提供する形になります。
設立時の現物出資のポイント
定款に現物出資の内容を詳細に記載する必要がある
資産の評価や検査役の調査が必要になるケースがある
設立直後から会社のバランスシートに資産が計上され、信用力を高められる
例えば、創業者が保有する自宅不動産を現物出資して事務所に充てるケースや、既に所有しているパソコンや機械を資本金に含めるケースなどが代表例です。
増資時における現物出資の特徴
一方で、会社が事業拡大のために 増資を行う際の現物出資 では、発起人以外の株主や新たに参加する投資家も現物出資を行うことが可能です。
増資時の現物出資のメリット
新規株主が現金を用意できなくても、自身の資産で出資できる
企業は現金を使わずに資産を獲得できる
設備投資や事業拡大に必要な資産を効率的に導入できる
例えば、提携先の企業が自社の保有する機械設備を現物出資し、その代わりに株式を取得するケースがあります。これにより、会社は現金を使わずに必要な資産を導入でき、提携先は資産を活用しつつ資本参加できるという 双方にメリットがあるスキーム です。
設立時と増資時の違いを整理
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
このように、設立時は「創業メンバーの資産を活用して会社を立ち上げる手段」として、増資時は「外部からの資産を取り込んで事業拡大を図る方法」として、それぞれ異なる役割を果たします。
活用時の注意点
設立時・増資時のどちらの場合も、資産評価の妥当性 が最も重要です。評価を誤れば不足額担保責任が発生し、後々大きなトラブルにつながります。また、資本金の現金比率が下がりすぎると、資金繰りに悪影響を及ぼすリスクもあるため注意が必要です。
実務では、税理士や司法書士に相談しながら、現金出資と現物出資をバランスよく組み合わせることが、リスクを抑えつつ最大の効果を得るポイントです。

よくある質問
Q1:現物出資できる資産にはどんなものがありますか?
A: 不動産、自動車、機械設備、パソコンなどの動産、有価証券(株式や社債)、債権、知的財産権(特許権・商標権・著作権)、ゴルフ会員権などが代表的です。ただし、評価が困難な資産(営業権やノウハウなど)は認められません。
Q2:現物出資の節税効果は本当にありますか?
A: はい、あります。現物出資で計上された資産は多くの場合「減価償却資産」となり、耐用年数に応じて経費として計上できます。これにより法人税の負担を軽減できるケースがあります。ただし、資産の種類によっては節税効果が限定的な場合もあるため、事前に税理士へ確認すると安心です。
Q3:現物出資のデメリットは何ですか?
A: 主なデメリットは以下の通りです。
手続きが煩雑で時間がかかる
資本金の現金比率が下がり、資金繰りが厳しくなる可能性がある
資産評価を誤ると「不足額担保責任」を負うリスクがある
対象外となる資産もある
Q4:会社設立時と増資時で現物出資の扱いは違いますか?
A: 違います。設立時は発起人のみが現物出資を行えますが、増資時は既存株主や新規投資家も現物出資できます。設立時は「創業資産の活用」、増資時は「事業拡大や提携に活用」と役割が異なります。
Q5:現物出資を行う場合、専門家に依頼した方がよいですか?
A: はい、ほとんどの場合依頼した方が安心です。司法書士や税理士、場合によっては弁護士のサポートがあれば、定款の記載、資産評価、登記手続きまでスムーズに進められます。専門家報酬はかかりますが、後々のトラブルを避ける保険と考えるべきです。
まとめ|現物出資を賢く活用して会社の成長につなげよう
現物出資とは、現金以外の資産を資本金として会社に出資する方法 であり、会社設立や増資の際に非常に有効な手段となります。
メリット:現金がなくても会社設立が可能、資本金を効率的に増加、減価償却による節税効果、資産の有効活用、会社の信用力向上
デメリット:手続きが複雑、資本金の現金比率が低下、評価ミスによるリスク、対象外資産の存在、専門家依頼のコスト
設立時は発起人のみが活用でき、増資時には既存株主や投資家も参加できるなど、状況によって現物出資の使い方は変わります。
重要なのは「現金と現物のバランス」を意識し、資産評価を適正に行うこと。そのうえで、税理士や司法書士などの専門家に相談すれば、リスクを抑えつつ現物出資を最大限に活用できます。
これから会社設立や増資を検討している方は、現物出資を「資金調達の選択肢のひとつ」として取り入れ、賢く事業の成長につなげていきましょう。





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