債権流動化とは?債権流動化の種類とメリット・デメリットを解説
- FA
- 7月19日
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目次
債権流動化とは?債権流動化の種類とメリット・デメリットを解説

債権流動化とは?その意味と仕組み
債権流動化の定義
債権流動化とは、企業が保有する売掛債権や貸付債権、不動産リース債権などの資産を、第三者に売却したり、証券化したりして現金化する資金調達手法です。このプロセスにより、企業は保有資産をバランスシート上から外す(オフバランス化)ことができ、財務体質の改善にもつながります。
債権流動化が注目される背景
債権流動化が注目される背景には、以下のような企業の課題があります。
金融機関からの借入に頼らない資金調達手段が必要
保有する資産を有効活用し、キャッシュフローを改善したい
会計上の資産・負債比率を改善し、企業評価を向上させたい
特に金融機関の融資審査が厳しくなる局面では、債権流動化による資金調達が有効な代替手段となります。
流動化の一般的な仕組みと関係者(SPCなど)
債権流動化では、通常以下のような関係者が関与します。
関係者 | 役割 |
債権保有企業(オリジネーター) | 債権を保有し、売却を行う主体 |
SPC(特別目的会社) | 債権を一時的に受け取るための法人。倒産隔離のために設立される |
投資家・金融機関 | SPCが発行する証券や債券を購入し、資金を提供する |
サービサー | 売却後の債権管理や回収業務を担う |
このように複数のステークホルダーが関与しながら、資産を流動化して現金化するのが基本スキームです。とくにSPC(特別目的会社)の設立は、債権を本体から切り離すために重要な要素です。
債権流動化の種類と特徴
債権流動化にはいくつかの方式があり、それぞれ特徴や目的が異なります。自社に最適な方法を選ぶためには、各方式の仕組みやメリット・デメリットを理解することが重要です。
トゥルーセール型(真の売却)
トゥルーセール型は、債権を完全に第三者へ譲渡する方式で、売却された債権は企業のバランスシートから除外されます。法的・実務的に“真の売却”と認められる必要があり、SPC(特別目的会社)を通じて債権を売却するケースが一般的です。
特徴
オフバランス化が可能
財務指標の改善に有効
倒産リスクの隔離に効果的
セキュリタイゼーション(証券化)
セキュリタイゼーションとは、債権をまとめて証券化し、投資家に販売する仕組みです。SPCを設立し、債権から生まれるキャッシュフローを裏付けとする資産担保証券(ABS)を発行します。
特徴
多様な債権をまとめて資金化できる
資金調達手段として柔軟性が高い
金融機関を通じた投資家への販売が可能
ファクタリングとの違い
ファクタリングも売掛債権を現金化する方法の一つですが、債権流動化とは目的やスキームが異なります。
比較項目 | 債権流動化 | ファクタリング |
対象債権 | 複数・大規模債権 | 小口・短期債権が中心 |
関係者 | SPC、投資家、サービサーなど多い | 売主とファクタリング会社が中心 |
会計処理 | オフバランス可能 | 一般的にオンバランス |
利用企業 | 主に大企業・金融機関 | 中小企業でも利用可能 |

債権流動化のメリット
債権流動化は、単なる資金調達手段にとどまらず、企業経営にさまざまなメリットをもたらします。以下に代表的な利点を紹介します。
資金調達の多様化
借入や社債発行に代わる新たな資金調達手段として活用でき、金融機関に依存しない資金調達が可能です。信用リスクを担保とするため、財務レバレッジの最適化にもつながります。
バランスシートの改善
トゥルーセール型であれば、債権をオフバランス処理できるため、資産規模が圧縮され、自己資本比率などの財務指標が向上します。結果として、投資家や取引先からの信用力が高まる効果も期待できます。
リスク移転による経営安定化
売却された債権の回収リスクはSPCや投資家に移転されるため、企業本体の財務リスク軽減につながります。特に将来の不確実性が高い債権の流動化は、経営の安定化に貢献します。
債権流動化のデメリット・注意点
一方で、債権流動化を導入するには注意すべき点も存在します。メリットだけでなく、リスクや制約も理解したうえで判断することが重要です。
手続きの複雑さ・専門知識の必要性
債権流動化は、SPCの設立、法務・会計の調整、投資家との交渉など、多くの専門的プロセスを含みます。そのため、専門家の支援が不可欠であり、内部で完結させるのは難しいのが実情です。
法的・会計的リスク
オフバランス処理が認められなかった場合、バランスシートに影響が残る可能性があります。また、万が一の回収不能時には、再度責任を問われるケースもあり、法的な構造設計が重要です。
コスト・時間の負担
SPC設立や証券化に必要な費用、外部専門家への報酬、準備期間などが必要となり、一定のコスト負担が発生します。短期的な資金調達ニーズには不向きな場合もあります。
債権流動化とファクタリングの違いを比較
債権を資金化する手段としては「ファクタリング」も広く知られていますが、債権流動化とはスキームや対象、利用目的が大きく異なります。以下に主な違いをまとめます。
比較項目 | 債権流動化 | ファクタリング |
対象債権 | 売掛債権、リース債権、ローン債権など複数を組み合わせる場合が多い | 売掛債権が中心 |
利用目的 | 大規模な資金調達、バランスシート改善、資産証券化 | 短期の資金繰り、入金サイクルの改善 |
関与者 | SPC、投資家、サービサーなど多数 | 売主とファクタリング会社 |
法的構造 | SPCの設立や証券化が必要なケースが多い | 比較的シンプルで導入しやすい |
対象企業 | 中堅~大企業や金融機関など | 中小企業、個人事業主でも利用可 |
ポイント:ファクタリングはスピーディーで中小企業向けの資金化手法、債権流動化は制度的かつ戦略的な資産活用の一手です。
債権流動化が向いている企業・業種とは?
債権流動化はすべての企業に適しているわけではありません。導入には一定の要件や準備が必要であり、向き・不向きがあります。
債権規模が大きい企業
債権流動化はスキーム設計や手続きに一定のコストがかかるため、一定以上の債権残高がある企業でないと費用対効果が見合いません。複数の債権をまとめて証券化するケースも多く見られます。
信用力のある中堅・大企業
投資家や金融機関が介在する仕組みである以上、企業の信用力が重要視されます。債権の回収可能性が高く、財務開示がしっかりしている企業に適しています。
不動産、リース、金融業界など
売掛債権やリース債権、ローン債権などを多く保有する業種では、流動化の対象資産が豊富にあり、スキームとの親和性が高くなります。特に不動産流動化は代表的な活用事例のひとつです。

債権流動化の導入プロセス
債権流動化の実行には、複数のステップを踏む必要があります。以下に一般的な導入プロセスを紹介します。
対象債権の選定と精査
流動化に適した債権(信用力の高い先への債権など)を選定し、回収可能性やリスクの有無を確認します。債権ポートフォリオの健全性が重要です。
スキーム設計とSPCの設立
会計・法務・税務の観点から最適な流動化スキームを設計し、必要に応じてSPC(特別目的会社)を設立します。ここで外部アドバイザーの関与が一般的です。
債権売却・証券発行・資金化
債権をSPCに譲渡し、SPCはその債権を裏付けに証券化し、投資家に販売します。調達資金が企業に渡ることで、キャッシュが確保されます。
モニタリングと会計処理
実行後も債権の管理・回収状況をモニタリングし、会計処理や報告対応を行います。運用フェーズにおいても継続的な管理が求められます。

債権流動化に関するよくある質問
Q1. 債権流動化とファクタリングのどちらを選べばよいですか?
A. 中小企業や短期の資金繰りにはファクタリング、大規模かつ戦略的資金調達には債権流動化がおすすめです。
Q2. オフバランス処理は必ず可能ですか?
A. いいえ。会計基準やスキームによってはオンバランス処理となる場合もあります。事前に専門家と相談しましょう。
Q3. 中小企業でも債権流動化は可能ですか?
A. 実務上は困難です。債権規模や信用力、コスト面を考慮すると、大企業向けの手法とされています。
Q4. 流動化された債権の回収は誰が行うのですか?
A. 通常はサービサー(債権回収業者)や元の企業が代行するケースが多く、契約によって異なります。
まとめ|債権流動化は高度な資金調達手法。自社に合うかを見極めよう
債権流動化は、単なる債権売却にとどまらず、企業の資金調達戦略や財務改善に大きな影響を与える高度な手法です。SPCや証券化といった専門的なスキームを伴うため、一定以上の企業規模や信用力、対象債権が求められます。
一方で、導入に成功すれば資金調達の選択肢が広がり、経営の安定化や資本効率の向上が期待できます。ファクタリングなど他の資金化手段と比較しながら、自社に最も適した方法を選びましょう。
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