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連結財務諸表とは?種類・作成手順と実名企業の導入事例を徹底解説

  • 執筆者の写真: FA
    FA
  • 8月29日
  • 読了時間: 12分

連結財務諸表とは


企業が成長し、複数の子会社や関連会社を持つようになると、経営実態は単体の財務諸表だけでは把握しきれません。親会社は黒字でも、子会社が赤字でグループ全体では資金繰りに苦しんでいるケースや、逆に子会社の好調によってグループとしては健全な経営状態にあるケースもあります。

こうした「グループ全体の姿」を正しく把握し、投資家・金融機関・株主などのステークホルダーに示すために必要なのが 連結財務諸表 です。連結財務諸表は、単体財務諸表を合算し内部取引を相殺することで、企業グループをひとつの経済主体とみなして作成するものです。


本記事では、


  • 連結財務諸表とは何か

  • 構成する書類の種類

  • 作成の流れとポイント

  • 実名企業の導入事例(EIZO、象印マホービン、日本ヒューム、ミナトホールディングス)

  • メリット・注意点・FAQ


を徹底解説します。これを読めば、連結財務諸表の仕組みや作成手順を実務レベルで理解できるはずです。



目次












連結財務諸表とは?種類・作成手順と実名企業の導入事例を徹底解説



財務諸表



連結財務諸表とは何か?


連結財務諸表とは、親会社と子会社の財務諸表を合算し、内部取引を相殺した上で、グループ全体の財政状態や経営成績を示す財務諸表です。金融商品取引法に基づき、上場企業には作成・開示が義務付けられています。




目的


  • グループ全体の「真の実力」を投資家に示す

  • 内部取引を除外して粉飾や二重計上を防ぐ

  • 資金調達や株主への説明責任を果たす






単体財務諸表との違い


単体決算は会社ごとの業績を示すのに対し、連結決算は企業グループ全体をひとつの経済単位として扱います。例えば、親会社が子会社に商品を販売した場合、単体決算では「売上」として計上されますが、連結決算では「内部取引」として相殺され、外部への売上のみが残ります。






連結財務諸表を構成する書類の種類


書類を見るスーツを着た男性



連結貸借対照表


資産・負債・純資産をグループ全体で集計した表です。親子会社間の貸付金・借入金などは相殺し、外部に対してどれだけ資産と負債を持つかを明確にします。






連結損益計算書・連結包括利益計算書


売上高・費用・利益を集計し、グループ全体の経営成績を示す表です。内部取引を除外することで、二重計上を防ぎます。包括利益計算書では、証券評価差額金や為替換算差額など、株主資本に直接反映される項目も含めて報告します。






連結キャッシュフロー計算書


現金の流れを営業活動・投資活動・財務活動に分けて示す表です。


  • 営業CF:商品販売による入金、仕入れ支払いなど

  • 投資CF:設備投資や有価証券購入など

  • 財務CF:借入金や社債の発行・返済など






連結株主資本等変動計算書


資本金・利益剰余金・新株予約権など、純資産の変動を示します。株主還元政策を説明する上でも重要です。






連結附属明細表


社債や借入金、資産除去債務などを明細で示し、連結財務諸表の信頼性を補完します。






連結財務諸表の作成手順


ステップ1:連結範囲の決定


対象子会社の判定


  • 原則:親会社が議決権の過半数を持つ子会社は全額連結。

  • 持分法適用会社:議決権の20〜50%を保有し「重要な影響力」を持つ場合。


実務ポイント


  • 形式的に50%未満でも、役員派遣や資金供給によって実質的に支配している場合は「実質支配」として連結対象に。

  • 海外子会社も含める必要があるため、会計基準(日本基準・IFRS・US-GAAP)や決算期の違いを調整する。






ステップ2:財務データの収集・調整


各子会社から試算表や決算報告書を収集。


海外子会社の場合:


  • 外貨建て財務諸表を円換算(期末レート・平均レートを使い分け)。

  • IFRSや各国基準との差異を調整(例:減価償却方法、引当金の基準など)。


実務上の落とし穴:


  • データ提出の遅れ → 連結決算全体が遅れる大きな原因に。

  • 子会社側の勘定科目の粒度が親会社と異なる → 勘定科目体系を統一しておくとスムーズ。






ステップ3:財務諸表の合算


  • 親会社と子会社の資産・負債・収益・費用を単純に合算。

  • ただし、持分比率に応じて非支配株主持分を区分。

  • 例:子会社株式の80%を保有している場合、残り20%は「非支配株主持分」として純資産に計上。






ステップ4:内部取引の相殺消去


目的:


グループ内で発生した取引を二重計上しないようにする。


相殺例:


  • 親会社が子会社に販売した商品(売上/仕入)。

  • 親会社が子会社に貸し付けた資金(貸付金/借入金)。

  • グループ内での配当金の支払い。


実務ポイント:


  • 相殺し忘れると「売上が実態より膨らむ」「利益が過大計上」される。

  • 特に在庫に含まれる「未実現利益」を消去する作業は難易度が高い。






ステップ5:連結調整仕訳


のれんの計上と償却


  • 子会社取得時に支払った金額と純資産の差額を「のれん」として計上。

  • 日本基準:20年以内に償却。

  • IFRS:償却せず、毎期減損テスト。


未実現利益の消去


  • 子会社が保有する在庫に親会社の利益が含まれている場合、それを除外。


持分法投資の利益認識


  • 持分法適用会社の利益を「持分法投資損益」として反映。






ステップ6:財務諸表の作成


上記の調整後、以下の書類を作成


  1. 連結貸借対照表

  2. 連結損益計算書

  3. 連結包括利益計算書

  4. 連結キャッシュフロー計算書

  5. 連結株主資本等変動計算書

  6. 連結附属明細表

  7. 完成した連結財務諸表は、有価証券報告書や決算短信に添付し、投資家や金融機関に開示。






ステップ7:内部統制・監査対応


  • 作成後は監査法人による監査を受ける。

  • 内部統制の整備(子会社とのデータ提出ルールやチェック体制)がないと不備を指摘されるリスクあり。






企業が語る導入の成果と課題


企業



EIZO株式会社 — Excelからの脱却でスピードと可視性を獲得


ディスプレイメーカーのEIZOは、日本国内外に15社以上の子会社を抱えています。従来はExcelを使って手作業で集計していたため、時間がかかり、誤りリスクも高い状況でした。


導入したのは連結会計システム「DivaSystem」。制度連結と管理連結を一元化し、経営層への迅速な報告と、データ分析の効率化に成功しました。






象印マホービン株式会社 — 精度とスピードを両立


魔法瓶で有名な象印マホービンは、Excelでの処理に限界を感じ、連結会計システム「Conglue」を導入しました。


その結果、2〜3日早く連結財務諸表が完成。精度も向上し、子会社からのデータ収集もスムーズになりました。






日本ヒューム株式会社 — 決算業務の標準化と属人化防止


インフラ関連部材メーカーの日本ヒュームは、Excel依存により業務が属人化していました。システム導入により標準化を進め、決算業務の早期化とリスク低減を実現しました。






ミナトホールディングス株式会社 — 会計システム統合で効率化


M&Aを経て9社を傘下に持つミナトホールディングスでは、グループ各社の会計システムがバラバラで非効率でした。


「PROACTIVE」を導入しシステムを統一。連結処理のスピードと精度が大幅に改善されました。






連結財務諸表のメリットと注意点


メリット



連結財務諸表のメリット


投資家・金融機関からの信頼性向上


  • 単体財務諸表では隠れてしまう子会社の損失や利益を含め、グループ全体を開示することで透明性が高まる。

  • これにより、投資家からの評価や金融機関からの融資条件が改善される。👉 例:象印マホービンはシステム導入により連結決算を迅速化し、株主への説明責任をより確実に果たせるようになった。






経営判断の精度向上


  • グループ全体のキャッシュフローや利益構造を把握できるため、投資判断やM&A戦略が合理的になる。

  • 赤字子会社の早期発見や、不採算事業の切り離し判断に役立つ。






資金調達条件の改善


  • 連結ベースでの財務健全性が明らかになることで、銀行融資の条件が有利になりやすい。

  • 特にスタートアップやベンチャー企業が投資家へ説明する際に「単体では黒字/赤字でも、連結で健全」というアピールが可能。






グループ内ガバナンスの強化


  • 子会社ごとの数値を一元的に把握できるため、不正会計や「飛ばし」取引の防止になる。

  • 内部統制の仕組みが整うことで、監査対応もスムーズになる。






海外展開企業にとっての必須ツール


  • 海外子会社を含めたグループ全体の為替リスク・投資収益を明示化できる。

  • 為替換算差額を包括利益に計上することで、投資家への説明がクリアになる。







注意点



連結財務諸表の注意点


作業負担の大きさ


  • 子会社の数が増えるほどデータ収集と整合性確認に時間がかかる。

  • Excel中心だと属人化しやすく、決算の遅延や誤りリスクが高まる。


対応策:専用システム(DivaSystem、Conglueなど)の導入。






内部取引の相殺処理が複雑


  • 売上・仕入・貸付金・配当などを正しく相殺しないと、利益が過大に表示される。

  • 特に「未実現利益」(在庫に残った利益)の消去は難易度が高い。






海外子会社対応の難しさ


  • 為替換算方法の違い(期末レート・平均レートの選択)。

  • IFRSや現地会計基準と日本基準の差異調整。

  • 決算期のズレがある場合は補正が必要。






システム投資・教育コスト


  • 連結決算システム導入には初期費用・運用費が発生。

  • 経理担当者への教育が不十分だと、システムを十分に活用できない。






監査法人からの指摘リスク


  • 内部統制が整備されていないと「不備」と判断される。

  • グループ全体の決算スケジュール管理ができていないと監査対応に遅れが生じる。






実務で使える補助ツール紹介


連結財務諸表の作成は、親子会社間のデータ収集・内部取引の相殺・換算調整など、手作業では非常に煩雑です。そこで役立つのが、連結会計専用システム補助ツールです。ここでは代表的なツールを特徴別に紹介します。




DivaSystem(アバント社)


特徴


  • 国内シェアNo.1の連結会計システム。多くの上場企業で採用。

  • 制度連結と管理連結の双方に対応。

  • グループ会社が多い企業や海外子会社を持つ企業でもスムーズに連結処理が可能。



メリット


  • Excel作業を大幅に削減。

  • 決算早期化と監査対応の効率化。



導入事例


EIZO株式会社はDivaSystemを導入し、連結決算のスピードと精度を改善。






Conglue(プライマル社)


特徴


  • 「シンプルさ」を強みにした中堅〜中小企業向けシステム。

  • 直感的なUIで属人化を防止。



メリット


  • Excelベースからの移行がスムーズ。

  • 導入コストが比較的抑えられる。



導入事例


象印マホービンが導入し、連結決算を2〜3日早期化






BizForecast(プライマル社)


特徴


  • 管理会計や予算策定にも強みを持つシステム。

  • 「経営分析」までカバーできるため、経営企画部門と親和性が高い。



メリット


  • 予算編成、実績管理、連結会計を一元管理可能。

  • グループ経営のPDCAを回しやすい。






PROACTIVE(ミロク情報サービス)


特徴


  • 会計から人事・給与までをカバーするERP型システム。

  • グループ会社の会計基盤を統一することで連結処理を効率化。



メリット


  • M&Aなどで子会社を増やした企業に有効。

  • グループ全体のデータ標準化を実現。



導入事例


ミナトホールディングスはグループ9社を統合し、連結決算を効率化。






ERPシステム(SAP・Oracle NetSuite など)


特徴


  • グローバル企業向けの統合基幹システム。

  • 会計・販売・在庫・人事なども統合管理可能。



メリット


  • 海外子会社が多い企業に最適。

  • IFRSや各国会計基準に柔軟対応。



注意点


  • 導入コスト・期間が大きいため、中小企業よりも大企業向け。






補助的な無料・低コストツール


中小企業庁や会計士協会のExcelテンプレート


  • まだ子会社数が少ない中小企業向け。

  • 無料で利用可能だが、属人化のリスクは残る。



Googleスプレッドシート+ワークフロー管理ツール


  • 海外子会社からデータ収集する際に便利。

  • コメント機能や同時編集で効率化可能。




ツール選びのポイント


  1. 子会社の数や海外拠点の有無

    中小規模 → Conglue、BizForecast

    大企業・海外子会社あり → DivaSystem、ERP

  2. 予算・導入スピード

    低コスト・短期導入 → Conglue、Excelテンプレート

    長期投資・全社統合 → ERP

  3. 管理会計も重視するか?

    経営分析重視 → BizForecast

    決算業務効率化重視 → DivaSystem






よくある質問


よくある質問



Q1:単体財務諸表と何が違うの?


A:単体は個別の会社ごと、連結はグループ全体を対象とします。






Q2:持分法はどんなときに使う?


A:20〜50%の株式を持ち、重要な影響を与える会社に適用します。






Q3:中小企業にも必要?


A:上場企業には義務、中小企業でも子会社を持つなら資金調達や信頼性の面で有効です。






Q4:海外子会社はどうする?


A:会計基準を統一し、為替換算調整勘定として表示します。






まとめ


連結財務諸表は、企業グループ全体の経営実態を明らかにするために欠かせない会計情報です。単体の財務諸表では親会社や子会社それぞれの状況しかわかりませんが、連結財務諸表を作成することで、内部取引を相殺した「本当の経営成績」や「資金の流れ」が把握できます。その結果、投資家や金融機関からの信頼性が高まり、資金調達条件が改善するほか、経営判断の精度やスピードも向上します。


一方で、子会社の数が多い場合や海外子会社を持つ場合には、データ収集や為替換算、内部取引の相殺処理などに多大な労力を要する点も事実です。そのため、実務ではDivaSystemやConglueといった専用システムを導入し、決算業務の効率化と正確性を確保する企業が増えています。


実際にEIZOや象印マホービン、日本ヒューム、ミナトホールディングスといった企業も、システム導入によって決算早期化や属人化の防止を実現しています。


連結財務諸表は義務として作成するだけではなく、グループ経営を強化し、持続的な成長を実現するための戦略的ツールでもあります。実務上の注意点を理解し、自社に合った方法やツールを取り入れることで、企業は「数値の開示」から「経営の未来を描くための活用」へと一歩進めることができるでしょう。

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